2008年 03月 15日
開けられない封筒
かれこれ2週間、開けられずに配達されたままの状態でおいてある封筒。
b0079523_18273552.jpg


ダンナの数少ない親友からの封書である。
彼らは盲導犬学校で知り合って、もう25年以上の付き合いをしている。
親友はダンナより年上で70歳代に入って数年経つ。

親友は学生の時、化学の実験中に事故に遭い、
視力を失うと同時に、左手をも失った。
盲導犬と歩くときは特別仕様のハーネスと、使用者の右側で歩くことを訓練された犬のみとしか歩んでこなかった。

事故に遭うまでは、化学者としての道を夢見ていたのだが、
方向転換を余儀なくされ、大学の哲学科の教授としての道を選んだ。
それも数年前には無事退官。

奥さんは彼よりかなり若くてまだ50歳代。
小学校の校長を務めていた。


2年ほど前に奥さんの健康が思わしくないと聞かされた。
乳がんの治療を受け始めたということだった。
一昨年のクリスマスには、治療の効果も上がって元気に過ごしているという話で
とてもほっとしたところだった。
時々は電話でお互いの近況報告をし合っていたのだが、
昨年夏くらいから、音沙汰がなくなってしまった。

それでもクリスマスカードは変わらず送ったものの、
今年に入っても返事はなかった。

それまでは、カード類の返事は奥さんがやっていたのだから、
返事がないということは、、、、、という悪い想像ばかりしてしまった。

親友はワープロを使うこともへこたれるくらいの人で、
大学での文章類は秘書、家でのそれは全て奥さんが手伝っていたのだから、
「パソコンでインターネットを!」と誘う我が家のダンナの話など
右から左へ流しているばかりだった。
パソコンができればどんなにか通信が楽になることか、とダンナの口癖も彼には届かなかった。

でも、それは難しいことなんだろうと私は思うのである。
左手がないのであれば、片手でキーボードを操作するしかない。
シフトキーやコントロールキーを使うときの大変さは想像に難くない。
それも本当の意味でのブラインドタッチで操作するしかないんだから。

親友にしてみれば、常に妻がそばにいてくれて、
必要なことは妻が全て代わってやってくれるんだから、、、、、と思っていたのだろう。
親友だけではなく、周囲の人殆どがそう思っていたに相違ない。


彼から電話があったのは、3週間ほど前。
電話を取った私には、彼の声が震えているのが手に取るようにわかった。
暫くダンナと話していたが、ダンナの声は沈んで、低く響いてくるばかりだった。

奥さんが亡くなったのは昨年11月。
まだまだ立ち直れないままでいるらしい。

まさか、若くて健康な奥さんが先に逝ってしまうなんて誰も想像できなかった。
70代になって、一人になり、生活全てが変わってしまうなんて。


そばには盲導犬パートナーがいてくれるだけ。
子供たちは巣立って、皆離れたところにそれぞれの家庭を持ち生活している。
今彼は周囲の人が運んでくれる食事を食べながら生活しているという。
御近所さんの善意に支えられてはいても、
妻がいなくなった寂しさは自分さえもどうにかしてしまいたいと思ってしまうだろう。


家のダンナがこの現実に何を思っているのかは、
この親友から送られてきた封筒を開けられずに置いてあるところに垣間見えてしまう。

私たちだって、まさかということが起きないとは限らない。
彼は大丈夫なのだろうか、私がいなくなっても。
彼は御近所さんと会話さえできないというのに、、、、。
それ以前に私が倒れても救急車を呼ぶことさえできないというのに。
[PR]

by elvisjade | 2008-03-15 19:04 | 健康


<< 下のPOSTに関連して      広角レンズ >>